チーム人数と成長フェーズで選ぶスタートアップ向けコワーキング
スタートアップの成長に合わせたコワーキングスペースの選び方
スタートアップの経営において、オフィスは重要な要素の一つです。しかし、創業初期から固定のオフィスを持つことは、コスト面や事業の柔軟性を考慮すると最適な選択肢とは限りません。そこで注目されるのが、コワーキングスペースの活用です。
コワーキングスペースは、柔軟な契約形態と多様なサービスを提供しており、特にスタートアップのような事業状況が変化しやすい組織にとって有効な選択肢となり得ます。しかし、数多くのコワーキングスペースの中から自社に最適な場所を選ぶには、いくつかの視点が必要です。
本記事では、スタートアップがチーム人数や成長フェーズに応じて、コワーキングスペースをどのように選び、活用すべきかについて解説します。コストを抑えつつ、チームの生産性を高め、事業成長を後押しするコワーキングスペースの選び方をご提案いたします。
スタートアップの成長フェーズとオフィスニーズの変化
スタートアップは、その成長過程でチームの人数や事業内容が変化していきます。これに伴い、オフィスや働く環境に対するニーズも移り変わります。
一般的に、スタートアップの成長フェーズとそれに伴うオフィスニーズの変化は以下のようになります。
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創業初期(1〜2名程度):
- ニーズ: コスト最小化、個人の作業集中、外部との打ち合わせ場所の確保。
- 課題: 固定費をかけずに最低限のインフラ(Wi-Fi、電源)と作業環境を確保したい。
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チーム拡大期(3〜5名程度):
- ニーズ: チームメンバーとの共同作業・議論の場所、打ち合わせ頻度の増加への対応、企業としての体裁。
- 課題: 複数人が集まって作業できるスペース、機密性を保てる打ち合わせ場所、法人登記や郵便物受取の対応。
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さらなる成長期(5名以上):
- ニーズ: チーム全体の生産性向上、部門間の連携、頻繁な会議対応、来客対応、採用強化。
- 課題: チーム全員が利用できる十分なスペース、集中とコミュニケーションを両立できる環境、規模に応じた会議室、セキュリティ。
これらのフェーズごとのニーズと課題を踏まえ、コワーキングスペースの多様な利用形態を検討することが重要です。
チーム人数別 コワーキングスペースの選び方と活用法
チームの現在の人数と今後の成長予測に応じて、最適なコワーキングスペースの利用形態や選ぶ際のポイントは異なります。
1. チーム人数:1〜2名程度のフェーズ
このフェーズでは、コスト効率と個人の生産性向上、そして対外的な信頼性確保が主な関心事となります。
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推奨利用形態:
- ドロップイン: 必要に応じて時間単位や日単位で利用。作業場所を頻繁に変える方や、まずは試してみたい場合に適しています。
- 月額会員(フリーアドレス中心): 比較的安価な月額料金で、いつでも好きな席を利用可能。定期的な作業場所が必要な場合にコストパフォーマンスが高い選択肢です。
- バーチャルオフィス: 物理的なスペースは不要だが、都心部などの一等地で法人登記や郵便物受取を行いたい場合に有効です。実際の作業は自宅やドロップイン利用で行います。
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選ぶ際の視点:
- 料金体系: 利用頻度に対して最もコスト効率の良いプランを提供しているかを確認します。初期費用やオプション料金も比較検討しましょう。
- 立地: ご自身の作業場所(自宅など)からのアクセスや、主な打ち合わせ場所に近いかなどを考慮します。
- 設備: 安定したWi-Fi環境、十分な電源、モニターやプリンターなどの設備が整っているかを確認します。
- 最低限のミーティングスペース: 短時間の打ち合わせやWeb会議に利用できる個室やブースがあるかどうかも確認しておくと便利です。
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活用法:
- 自宅以外での集中作業場所として活用します。
- カフェなどよりも静かで設備が整っているため、オンライン会議にも適しています。
- 必要な場合は、ドロップインで他のコワーキングスペースを利用し、立地に合わせて使い分けることも可能です。
2. チーム人数:3〜5名程度のフェーズ
チームメンバーとの共同作業や議論の頻度が増え、対外的な打ち合わせの機会も増加します。
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推奨利用形態:
- 月額会員(複数名プラン): チームメンバーが複数名で利用できる月額プラン。フリーアドレスや一部指定席を利用できる場合が多く、個人契約よりも割安になることがあります。
- 固定席(デスク単位): チームの作業場所を固定したい場合に検討します。席を確保できる安心感があり、チームメンバーが近くで作業できます。
- 会議室利用: チームミーティングや外部との打ち合わせのために、会議室を頻繁に利用することになります。
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選ぶ際の視点:
- 複数人での同時利用可否: チームメンバー全員が同じ時間帯に利用できるキャパシティがあるかを確認します。
- 共同作業スペース: チームで集まって議論したり、ホワイトボードを使ったりできるスペースや、少し声を出せるミーティングブースなどがあるか確認します。
- 会議室の使いやすさ: 会議室の数、予約システムの利便性、利用料金体系(時間単位、従量課金など)を比較します。外部の方を招きやすい雰囲気かどうかも重要です。
- 法人契約: 法人名義での契約が可能か、登記や郵便物受取サービスが付帯しているかを確認します。
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活用法:
- 週に数日、チームメンバーが集まって共同作業やミーティングを行う拠点として利用します。
- クライアントやパートナーとの打ち合わせ場所として会議室を活用します。
- 法人登記を行うことで、企業の信頼性を高めることができます。
3. チーム人数:5名以上のフェーズ
チームの規模が大きくなり、よりまとまった作業空間やプライバシー、セキュリティが必要になる場合があります。
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推奨利用形態:
- 月額会員(複数名プラン、専用オフィス/ブースタイプ): チームメンバー全員が利用できる月額プランや、一定人数用の個室・ブースタイプオフィスを利用します。
- 固定席: チームメンバー分の固定席を確保し、専有に近い形で利用します。
- 法人契約: この規模になると、法人契約は必須となることがほとんどです。
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選ぶ際の視点:
- キャパシティとゾーニング: チーム人数に見合うスペースがあり、集中エリア、コミュニケーションエリア、会議エリアなどが適切にゾーニングされているかを確認します。
- 専用スペース/固定席の有無: チームとしてまとまって作業できる専用の部屋や、人数分の固定席を確保できるか確認します。
- 会議室機能: 規模に応じた会議室(大小複数)があり、頻繁な利用に対応できる予約システムや料金体系であるかを確認します。Web会議設備(モニター、カメラ)の有無も重要です。
- セキュリティ: プライバシーが保たれるか、専用スペースの施錠は可能か、部外者の出入りは管理されているかなどを確認します。
- 登記・郵便物対応: 法人登記が可能か、郵便物の受取・保管・転送サービスが整っているかを確認します。
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活用法:
- チームの日々の主要な作業拠点として活用します。
- チーム全体での定例会議や、部門別のミーティング、ブレインストーミングを頻繁に行います。
- 重要なクライアントとの打ち合わせや、候補者との面接場所として利用します。
フェーズを跨いだ柔軟なコワーキングスペース利用
スタートアップの成長は必ずしも直線的ではありません。チーム人数が一時的に変動したり、特定のプロジェクトで増減したりすることもあります。コワーキングスペースの柔軟性は、このような状況に対応する上で大きな強みとなります。
- プランの変更: 多くのコワーキングスペースでは、チーム人数の増減に合わせて月額プランを変更したり、固定席の数を調整したりすることが可能です。事前に、プラン変更の条件や手続きについて確認しておきましょう。
- 異なる利用形態の組み合わせ: 日常的な作業は月額フリーアドレスで行い、重要な会議のために別の場所の貸会議室を利用する、チームメンバーが一時的に増えた場合にドロップインを追加で利用するなど、複数のコワーキングスペースや利用形態を組み合わせることも有効です。
- バーチャルオフィスとの併用: 実質的な作業拠点はコワーキングスペースのフリーアドレスや固定席としつつ、登記や郵便物受取は都心の一等地にあるバーチャルオフィスで行うことで、コストと信頼性のバランスを取ることも可能です。
失敗しないコワーキングスペース選びの共通ポイント
チーム人数やフェーズに関わらず、コワーキングスペースを選ぶ際に共通して考慮すべき重要なポイントがあります。
- 予算と費用対効果: 月額料金だけでなく、初期費用(入会金や保証金)、会議室利用料、印刷費、ロッカー使用料など、追加で発生しうる費用も含めて総コストを把握します。提供されるサービスや設備に対して費用が見合っているか、費用対効果を検討しましょう。
- 立地: チームメンバーの通勤の利便性、主要なクライアントやパートナーからのアクセス、採用活動におけるアピールポイントとなるかなどを考慮して立地を検討します。
- 設備・サービス: 安定した高速インターネット環境(有線LANの有無も確認)、十分な電源コンセント、モニターやWeb会議システムなどの共有設備、無料ドリンクやキッチンスペース、郵便物・宅配便の受取・発送サービス、受付対応など、業務に必要なサービスや設備が揃っているか確認します。
- 内観・雰囲気の確認: ウェブサイトの写真や動画だけでなく、可能であれば実際に内観見学をすることをお勧めします。利用者の雰囲気、騒音レベル、席の種類、清潔感など、写真だけでは分からない情報を得ることができます。チームメンバーが快適に働ける環境かを確認することは重要です。
- 利用規約と法人契約の詳細: 契約期間、解約条件、利用時間、ゲストの招き入れルール、法人契約に関する詳細(登記住所としての利用可否、郵便物対応など)を契約前に必ず確認してください。
まとめ:自社の「今」と「未来」に合ったコワーキングを見つける
スタートアップにとって、コワーキングスペースは単なる作業場所以上の価値を持ち得ます。それは、コストを抑えつつ、チームの生産性を高め、事業の成長に合わせて柔軟に変化できる「働くインフラ」です。
最適なコワーキングスペースを選ぶためには、自社の現在のチーム人数と今後の成長フェーズ、そしてそれぞれのフェーズで必要となるオフィス機能やサービスを明確に把握することが第一歩となります。その上で、この記事で解説したような「チーム人数別」「フェーズ別」の視点に加え、費用、立地、設備、雰囲気といった共通の比較ポイントを総合的に検討することが重要です。
「コワーキング検索ガイド」では、全国のコワーキングスペースの情報を様々な条件で比較検討することができます。自社の状況に合った最適なコワーキングスペースを見つけるために、ぜひご活用ください。